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2022.10.19

日本酒造りでよく聞く「搾り」って何? 「上槽」の意味とは・・・【渡辺酒造店】

もろみの写真 柄杓とお酒

 

■上槽の意味

 

「上槽」(別名「搾り」)とは、タンク内で発酵を終えた醪を、「酒粕」と「液体」に分離させる作業です。

醪には原料であるお米が固形として残っているのですが、酒税法上、日本酒はその固形分を濾して
取り除く必要があります。
そのため、醪から液体だけを取り除くことで、日本酒(清酒)となるのです。

 ※逆に、上槽を行わないお酒はどぶろく(濁酒)と呼ばれ、「その他の醸造酒」に分類されます。

 

■上槽の種類

上槽の方法は、複数あります。

 

 ①自動圧搾機(ヤブタ式)

醪を詰めた袋を横一列に並べ、その横方向から圧力をかけて搾ります。
最初から最後まで、均
一に搾ることができ、品質が安定することが特徴です。

また、短時間で大量のお酒を搾ることができるため空気に触れる時間も短く、品質の劣化が少なくなることや、
自動化によって、蔵人の負担が大きく軽減されるといったメリットが挙げられます。

ヤブタ 酒粕 搾ったばかりのお酒

 

 ②搾り袋

手作業で搾る、伝統的な手法です。
搾り袋(酒袋)と呼ばれる布の袋に醪を詰め込み、搾り機である「槽(ふね)」の中に敷き詰め、
から圧力をかけていきます。

「佐瀬式」や「八重垣式」といった方式があり、どれも半自動化のような搾り方です。
そのため、ある程度人の手をかけることで、蔵人・杜氏の意思を反映させた搾りができたり、無理
な圧力をかけないために、まろやかな風味のお酒に仕上がります。
吟醸酒など、格の高いお酒に用いられることが多い手法です。

木綿袋でお酒を搾る様子 木綿袋でお酒を搾る様子

 

 ③袋吊り

高級・特別なお酒で使用される手法です。
出来上がった醪を詰めた搾り袋を吊り下げることで、落ちてきた液体を集める手法です。
上記の2種と違い、外部からの圧力を全くかけない手法ですので、雑味がなく華やかな風味になりますが、
時間や手間暇がかかる
のが特徴です。

滴り落ちる雫を集め、にごり成分が沈殿するのをゆっくりと待ち、
上澄みだけを集めます(滓引き)。

袋吊り搾りの様子 袋吊り搾りの様子 袋吊り搾りの様子

袋吊り搾りの酒袋 袋吊りで搾ったお酒

 

 ④遠心分離

「遠心分離機」を使用することで、遠心力によって、液体より重い酒粕のみが容器の底面・側面に張り付き、
液体と酒粕を分離させることができます。
その後、ポンプで吸い取ることで、液体部分(清酒)
のみを取り出します。
この方法では、他の上槽方法と違って、お酒が濾すための”布”に触れることがないため、布の素材による
雑味や香りがつきません。
それによる、お酒本来の味わいや香りがそのまま残った品質
の良いお酒に仕上がります。
一方で、一度に搾れる量が限られているため、効率面ではやや劣っています。

※渡辺酒造店では、この手法は使用しておりません。

 

■上槽のタイミングって?

醪は、発酵が進むにつれて泡が少なくなっていきます。
そして、表面に泡がなくなってきた時が搾り
のタイミングとされていますが、
細かい部分は蔵ごとの杜氏の経験に基づく判断によって決まっ
てきます。

吞み口から流れているお酒

 

■上槽したお酒って?

基本的に、上槽直後に出てくる最初の液体を「あらばしり」、
次に出てくる液体を「中取り(中汲
み)」と呼ばれます(※各酒蔵によって違いあり)

上槽直後のお酒は、発酵過程で生じた炭酸ガスが含まれていたり、細かい米粒などの固形物が残っており、
濁った状態の液体です。

この固形分は「滓(おり)」と呼ばれ、瓶詰め後の温度変化や時間経過によって起きる白濁の原因となるため、
上槽の後に「滓ひき」という除去工程が入る場合が多いです。

一方、滓を残したままにする場合もあり、そのようなお酒は「滓がらみ」と呼ばれます。

 

■酒粕

上槽によって分離された固形部分は「酒粕」と呼ばれます。
漬物のような加工食品の原料、合成清酒の香味料、焼酎の原料として使用されます。
お酒造りにおいては、この酒粕の総重量を量り、仕込みに使ったコメの総重量に対する「粕歩合」を算出します。
この粕歩合によって仕込みの中で米がどれくらい溶けたのか(もろみの発酵状態)を把握し、
今後の造りの参考データとして活用されています。

ヤブタで搾り終えた酒粕

 

■まとめ

いかがでしょうか。
上槽は「どんなタイミングで搾るのか」、「どんな手法で搾るのか」によって、できあがる日本酒の
味わい・香りが大きく変わってくる、とても大切な工程です。
発酵した醪が日本酒へ変わる、一番ダイナミックな瞬間ですので、蔵見学をされた際にはぜひ、
この上槽がどんな方法で行われているのか、チェックしてみてください!

 【参考サイト】
「日本酒の基礎知識」
2017年 新星出版社
「広島SAKEクラブ」
https://www.hiroshimasake.com/page/37
「SAKETIMES」
https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_enshimbunri
「SAKE Street」
https://sakestreet.com/ja/media/learn-sake-filterlation#3%E3%81%A4%E3%81%AE-%E2%8
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