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2022.8.8

日本酒造りに欠かせない「精米」お米を磨く精米から蒸米までの原料処理の工程を知る【渡辺酒造店】

日本酒の主な原料は「水」「米」「麹」ですが、
日本酒造りの工程は、お米の準備を整える「原料処理」からはじまります。

本コラムでは、日本酒造りに欠かせない原料処理について詳しく見ていきましょう。

甑で米を蒸し上げる様子

日本酒の「原料処理」4つの工程

①精米(せいまい)
玄米を精米機にかけて丁寧に磨くことで、日本酒の品質を低下させる外側の部分を取り除き、
酒造りに適した「心白」を削り出します。


②洗米(せんまい)
精米したお米についている糠(ぬか)を、綺麗に洗い流します。

③浸漬(しんせき)
精米した米を水に浸します。
精米歩合が低くなるほど水分の吸収が早くなるため、浸漬の作業は秒単位で管理します。

④蒸米(むしまい)
お米を蒸すことで、麹の酵素による糖化作用を受けやすくなります。
蒸しあがったお米は麹米・掛米として、それぞれ酒母用と仕込み用に使われます。

続いては、お米を削る作業の「精米」についてもう少し詳しくみていきましょう。

甑の底に偽物の米を敷く様子

日本酒の味わいや香りは精米歩合で変わる

「精米」とは、酒米の中心部である「心白(しんぱく)」を残しながら、お米の表面を削り、
磨く
ことを言います。
お米に含まれるタンパク質は、麴(こうじ)などの酵素によって分解され、旨み成分となりますが、
すぎると雑味の原因となります。
そのため、タンパク質や脂肪を多く含んでいるお米の外側部分を糠として削ることで、
香りと味わいの良いお酒になるのです。

お米をどれだけの割合で削るのかを、「精米歩合」と言います。
食用のお米の精米歩合は90%程度ですが、「普通酒」は70%です。
「吟醸酒」は60%、「大吟醸酒」は50%以上削ります。
つまり、日本酒のラベルに「精米歩合50%」と書いてあれば、お米の半分を削り落としているということです。
中には、精米歩合30%、渡辺酒造店の最高級となると精米歩合18%というお酒もあります。

精米歩合が高いほど、雑味のない上品な味わいと、華やかでフルーティーな香りを生みだします。
精米には、数ミリ単位で米を削る高い技術が必要であり、精米の工程は自社内で精米している酒蔵もありますが、
渡辺酒造店は、高度な技術をもつ精米の専門業者に委託しています。

精米後の米粒  浸漬中の米粒

精米方法の歴史

さまざまな種類の日本酒の中でも、特に人気の高い「吟醸酒」が発展した背景には、
精米
技術の進歩も大きく寄与しています。
古くから日本屈指の酒どころであった兵庫の灘は、切り立った六甲山系の急流河川に恵まれていたことから、
水車を動力源にした精米機を用いて高度の精米を行ない、高品質の酒
を醸造していました。

一方で、河川を動力に利用できなかったその他の地域では、人力による足踏み式の精米が主流でした。
高精度の精米といっても、水車を使用した精米機の精米歩合は85%程度だったようです。
現在では技術の進歩のおかげで、より旨い日本酒をつくるために欠かせない精米技術が確立されています。

洗米を終えた米

洗米から蒸米にかけて

お米は、糠などを洗い流したあと、適度な水分を吸水させ、蒸して使います。
洗米作業は、真冬の冷たい水の中で何度も洗う過酷な作業。

その昔、現代ほど精米技術が高くなかった当時は、洗米の工程は”七・五・三”と呼ばれ、
70回・50回・30回と各回で水を取り替えながら、何度もザルで力強く洗っていました。
現在も高精白のお米は蔵人が手洗いをしますが、とても優しく細心の注意を払いながらの扱いが必須になります。

最近は、水流を利用して米を丁寧に洗うことのできる、洗米機が使われています。

全自動洗米機  吸水率の観察

洗米したのち、一定時間水に浸けて吸水させます。
これを「浸漬(しんせき)」と呼び、吸水時間はお米の精米歩合や品種によって異なります。

吸水させた米は、一晩布で包み、品質を均一化してから、次の作業である「蒸し」の工程に入ります。

甑と米  甑の内部  これから蒸し上げる米の準備

蒸米の工程には、こしき(大型の蒸し器)や連続蒸米機が使われます。
蒸気で一気に加熱するので、おこわのように硬くなります。
一般的に食べるごはんの水分
量が60〜70%なのに対し、蒸米は30〜40%の割合です。
お米を蒸すことで、米のデンプン質が消化しやすいαデンプンに変わり(α化)、
麹菌によっ
て糖化されやすくなります。

蒸米が悪いと、その後の麹づくりや醪(もろみ)づくりにも影響を及ぼすため、
「蒸米」は日
本酒づくりの重要な作業工程の一つです。
酒造りでは、米粒の外側が硬く内側には軟らかさが残る「外硬内軟(がいこうないなん)」の蒸米が
良いとされています。

蒸す時間の後半部分は高温で一気に蒸し上げることで、表面の水分を飛ばし、
内側の水
分が蒸発しきれずに残った状態を目指します。

蔵人と蒸米  蒸しあがった高精白の米粒

表面は乾いていても内側の水分が残っているのが、理想的な”外硬内軟”の状態です。
ふっくらと炊いたご飯はモチモチして美味しいですが、麹造りにおいては、粘りが強いと作業性が悪く、
醪に入れるとすぐに溶けてしまいます。
米が溶けすぎると、そこに含まれる雑味成分もいっしょに溶け出してしまうのです。
ある程度硬い蒸米を使うことで、麹が手に付かず、ほど
よく溶け残ります。

その後に続く麴造り(こうじづくり)においても醪造り(もろみづくり)においても、
大切なこと
は蒸しあがったお米が団子のようにならずに、一粒一粒ばらばらになることです。

食用米は粘りが強くお団子のようになるため、日本酒造りにはあまり好ましくなく、
ほとんどは酒造好適米という酒造りに適したお米が使用されます。

米麹を手に取っている写真

精米の効果

①味わいの変化

精米歩合は、日本酒の味わいに変化をもたらします。
一般的に、より多くの部分を磨いた(精米歩合の高い)日本酒は、すっきりとして雑味のない、
クリアな味わいに仕上がるのが特徴です。

逆に精米歩合が低い日本酒はコクがあり芳醇な味わいとなるので、お米の旨味を特徴としたお酒が多いでしょう。

ちなみに、純米大吟醸と大吟醸、純米吟醸と吟醸の違いは、醸造アルコールが添加されているかどうかの違いになり、
米と米麹のみで造られたお酒のみ「純米」と表記できます。

醸造アルコールを添加することで、淡麗で辛口な味わいや後味に感じられたり、品質をより良く保つことが
できるといった効果もあります。

お酒をお猪口に注ぐ様子

②香りの変化

精米歩合は、味わいと同様に日本酒の香りにも影響を与えます。
一般的に精米歩合が高いお酒は華やかで香り高くなり、日本酒特有のフルーティな香りがするのが特徴です。
この香りを「吟醸香(ぎんじょうか・ぎんじょうこう)」といいます。

逆に、精米歩合が低いお酒は、控えめなお米本来の香りに仕上がります。
なぜ香りが精米歩合によって変化するのかというと、お米に含まれる脂質の量が変わるからです。
脂質には、香り成分を抑制する力があります。
脂質はお米の表層部分にしかない
ので、お米を磨けば磨くほど脂質が減っていき、
より豊かな香りのお酒に仕上がるというわ
けです。

蓬莱のワイングラス

まとめ

ここまで、日本酒を造る際の工程についてご紹介してきました。
日本酒好きの皆さんなら、よく耳にするであろう「精米歩合」。
精米歩合によって日本酒の種類や味・香りが変わったりと、とても重要な工程です。
これから日本酒を飲む際は、そのお酒がどのような工程を経て造られたかを考えながら
しむのも面白いのではないでしょうか。

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